Growth Engineer

家庭とか組織とかサービスとか、いろんなものに対してエンジニア的な視点で育成してみる話

Joy, inc.

育てる的な話に関連して、アジャイル周辺の人達が盛り上がってたJoy, Inc.を読了したので忘れないうちに感想をまとめておく。

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

USでもっとも幸せな会社と言われており、会社ツアーなども頻繁に行われているらしいメンロー・イノベーション社における組織づくりの話。

喜びを軸としたパフォーマンスの形成

「喜び」というワードがそこかしこに飛び交っているので少し斜めな気分で読みはじめたのだが、実際はアジャイルな組織づくりの事例紹介で大変参考になった。

いわゆる「良い組織」を作る場合の「良い」の軸を関係者の喜びにおいており、そこを高めていくことで組織パフォーマンスを上げるという流れになっている。

メンロー社が開発会社ということもあり、メンバーであるエンジニアやハイテク人類学者(という名になっているが、開発のための要件を膨らましたり具体化したりしてまとめるような役割の人?)のモチベーションの高さがそのままパフォーマンスにつながるという開発領域でよく見られる構造である。

なお、ここでいうパフォーマンスは開発の速度だったり品質だったり作り上げたものの精度(顧客の本来の要件にどれだけマッチしてるか?)だったりする。

開発のプロセスそのものはペアプロなどのエクストリーム・プログラミングの手法や、デイリースタンドアップミーティングやカンバンなどを活用したアジャイル開発でよく見られる手法を取り入れており、プロダクトオーナー(顧客)も上手に巻き込んだまさにあの辺りのお手本である。

組織レイヤーでのアジリティ

メンロー社の面白いところは、それらアジャイル的手法(原理主義的に書くといろいろと面倒なので、アジャイル界隈のエライ人が言ってた「適合すればなんでもアジャイル、そうウォーターフォールもね!」に則ってこの表現を使う)をワンプロダクトのチームだけでなく、複数プロダクト(しかも受託開発)をまたがった会社全体に適合させているところかな?と思った。

構造としてはワンプロダクトの中の複数プロジェクトと類似してるのかもしれないが、いわゆる思想も含めてプロジェクトの方向性統一(いわゆるミッションステートメント的なやつ)に「喜び」をおくことで、本来は複数方向を目指してしまいがちな組織に、推進するための指向性を持たせているのかもしれない。

例えば、メンバーが楽しく働くために休暇が取りやすくするために何が出来るか?とか、ライフワークバランスを満たすために何が出来るか?などの(プロジェクトチームの枠を超えた)組織規模の課題を、喜びを最大化するためにアジャイル的な手法で実現しているのがとても面白かった。

(考え方の方向性が同じなのも面白さの要因かもしれないが、、、)

リモートワーク離れの風潮

ちなみに他のUSハイテック系組織と同様に、メンロー社でも対面コミュニケーションにより発生する高い成果を重視することからリモートワークは推奨されていない。

(急な介護の発生などの緊急時対策としては活用されているようだが)

ただし、これはペアプロなど人的冗長化によっていつでも業務が休める、育児などの負荷がある場合はむしろ会社に子供を連れてきてしまう制度を作る等、リモートワークがなくてもある程度成り立たせるための仕組みが充実しているからできるんだろうとも思う。

(少なくとも現在の日本の状況でリモートワークなしでライフワークバランスを実現するのはだいぶ難易度が高いと思うので、USの状況だけ見て単純にリモートワーク禁止にするのもちょっと違う気がしている)

なので現在の日本のリモートワーク充実の方向性も実は過渡期的なもので、リモートワークという少しゆるい枠でカバーできるようになった&なんらか手当てした方が良いと顕在化したいろいろなものを、新たな制度や仕組みできちんと埋めていくのが次のフェーズになるような気がする。

リモートワークが銀の弾丸ではなく、あくまでパッチ的な処置であることは常に頭の片隅に置いといた方が良さそうだと改めて考えている。

この辺り、ライフワークバランスによっていかに業務パフォーマンスを上げるか?を軸として見失わないようにしないと、途端に議論が複雑怪奇になるので注意が必要なのかもしれない。

アジャイル事例集としてもオススメ

自分は組織論的な視点でも読んでいたのだがチケットのライフサイクルやファシリティの活用など、アジャイル的手法について具体的な事例とともに書かれているのでプロジェクトの枠でも十分活用できる本だと思う。

解説にもあったが「超理想の組織はこうだ!」というよりも、ちょっと手を伸ばせば届きそうな感じがとても良いバランスの本だと思ったのでこの辺りに興味がある人にはオススメ。